-青山祐介
今年の夏も全国各地で花火大会が開催されました。近年、そんな花火大会に華を添えているのがドローンショーです。数百機のドローンそれぞれが放つ光で、夜空にイラストやアニメーション、企業のロゴなどを描くドローンショー。年々、開催数が増えると同時に、一度に飛行するドローンの数が、数百機から千機を超えるような規模になっています。さらにこの夏は、日本で初めてドローンに照明だけでなく花火を搭載したショーまで開催されました。
東京オリンピックの開会式で夜空にTOKYO 2020のシンボルを描く
ドローンショーが世に知られるようになったのは、2017年にアメリカのスーパーボウルのハーフタイムショーで、150機のドローンが夜空に文字を描いたのが始まりだといわれています。日本では2019年に開催された東京モーターショー2019のイベントで、500機のドローンが夜空に不死鳥や地球といった立体イラストを描き話題となりました。そして、日本中の人々にドローンショーという存在が知られることとなったのが、2021年夏に開催された東京オリンピックの開会式です。開会式の演出のひとつとして、国立競技場から見上げた夜空に、1824機のドローンがTOKYO 2020のシンボルや地球などの立体イラストを描き上げました。
これらのドローンショーで使用されたのは、パソコンのCPUで有名な米インテルの「Shooting Star」というドローンです。あらかじめ地上のパソコンでアニメーションを構成する点として飛行経路がプログラムされていて、ドローンはそのプログラムに沿って飛行しながら、機体に搭載した照明を明滅させたり色を変えたりすることで、アニメーションを表現させます。地上から見た夜空に浮かぶ無数の光る点が動いたり、色を変化させることで、夜空に絵や文字を描き、さらにそれが動いてアニメーションになる。そんなドローンショーは世界の人々を驚かせ、世界中で人気のコンテンツとなっていきました。
年々規模が拡大するにつれて、人々の関心が高まるドローンショー
日本では東京モーターショー2019でのイベントがきっかけとなって、ドローンショーのビジネスが本格化しました。2019年夏には石川県にドローンショー(現ドローンショー・ジャパン)が創業し、石川県を中心に数十機から100機を超えるドローンショーを全国各地で開催するようになります。また、2021年末にはドローンサービス事業者であったレッドクリフがドローンショービジネスに参入。今ではこの2社が日本を代表するドローンショーのサービス事業者として知られ、イベントの規模や内容で競っています。
そんな年々拡大するドローンショーの規模は、一般的にショーで使われるドローンの機数で計られることが多いようです。グローバル企業として知られるあのインテルのドローンショーは、早くから数百機から千機を超えるような規模となっていましたが、日本では2019年に開催された数十機という規模からスタートしました。年々、百機、数百機と規模が拡大し、2023年には千機を超えるショーが開催されています。
ドローンショーで使うドローンが増えると、描き出すイラストやアニメ、企業のロゴなどがより精緻に再現できるようになります。それは、一般的にデジタルカメラのセンサーの画素数が多ければ多いほど、より精緻な画像を撮影することができるのと同じです。このドローンの機数が増えることによって、2022年2月には夜空にドローンが描いたQRコードを、スマートフォンで撮影すると、企業のホームページを開くことができるようにもなりました。また、ドローンの機数が増えることで、単に絵柄の線を表現するためだけでなく、ドローンがスマートフォンやパソコンのモニターのドットのように縦横に整然と並び、そこにさまざまな映像を表現する、“空飛ぶスクリーン”も実現しています。
人々の関心が高いドローンショーは、企業のマーケティングツールとしても
このように年々拡大してきたドローンショーの規模ですが、2024年夏現在、日本ではテスト環境で1500機による演出を実現しています。一方、ショー用ドローンメーカーが数多くある中国では、2022年に約5000機によるショーを開催し、ギネスに認定されています。こうした機数による規模の違いは、ドローンと地上が通信する無線環境によるところが大きいといわれています。世界的にドローンは2.4GHz帯と5GHz帯の電波を使って通信を行いますが、残念ながら日本では事実上2.4GHz帯しか利用ができないため、5GHzを利用する場合に比べて、飛行できるドローンの数が少なくなってしまうのです。
それでも、1500機のドローンによるショーは、非日常性という意味において見る人に大きなインパクトを与えてくれます。そのため、近年は大手企業がプロモーションの一環としてドローンショーを利用するケースが増えています。2023年12月には日本コカコーラが横浜港でクリスマスドローンショーを開催したほか、2024年7月にはアサヒ飲料がカルピスの日にちなんだドローンショーを東京で実施。また、2025年に開催される大阪・関西万博のちょうど1年前にあたる2024年5月には、大阪市中心部で公式キャラクターなどを夜空に描くドローンショーを開催しました。
また、日本の夏の風物詩である花火大会の中でもドローンショーが開かれるようになっています。今年の夏も全国で10を超える花火大会でドローンショーがアトラクションのひとつとして開催されているほか、東京ディズニーリゾートが全国数カ所の花火大会で、ミッキーマウスやディズニー映画のキャラクターを表現したスペシャルドローンショーを開催しています。このような花火とドローンショーの相乗効果は、ドローンショーという話題性による集客も見込まれるなど、花火産業にとっても好意を持って捉えられており、一部の煙火業者の中には、自らドローンショーを手がけるケースも出てきているようです。
今、ドローンショーは最もホットなドローンビジネスに
このように、年々規模や開催数が増えるなど、産業としてのスケールが大きくなってきているドローンショービジネス。近年はショー用ドローンの販売や、ショーのフランチャイズが拡大しており、全国各地にドローンショーを実施するという事業者が現れています。もともと空撮などを手がけていたドローン事業者から、広告代理店といったドローンとは異業種からの参入もあるなど、その形態はさまざま。また、空飛ぶクルマを手がけるSkydriveもドローンショーを始めるなど、今、ドローンショーはホットなドローンビジネスとして注目を集めています。
こうしたドローンショービジネスの拡大により、ドローンショーに携わる人材のニーズも高まっているようです。ドローンショーでは単にドローンを飛行させるというよりも、アニメーションを描く、プログラムするといった人材のほか、現地で数百機のドローンを整備、充電して離陸場所に並べ、安全な飛行を管理するオペレーターなど、さまざまな人材が求められています。アニメーターやプログラマーはCADソフトや3DCGソフトが使えるといった極めて高い専門知識が求められる一方で、現地でドローンを扱うオペレーターはドローンの知識をもった人材が数多く求められています。 また、ドローンショーの飛行は“夜間”“イベント上空”“高高度”といった特定飛行にあたり、航空法上の許可・承認のための豊富な知識が必要なほか、ショーを開催する場所によって港湾法や河川法をはじめ、さまざまな法令に関する知識も求められます。そのため、これまではどちらかというと操縦技術に重きを置いて求められてきたスキルが、いわゆる学科にあるような知識ベースのスキルも、ドローンショーに携わる人材では求められることになるでしょう。